マルガレーテンヘーエ工房の器 | スペシャルインタビュー 平松 洋子(エッセイスト)
様々な分野で活躍する3名の方に、マルガレーテンヘーエ工房の器について語っていただきました。
デザイン、文化、クリエイション、様々な視点からこの器の魅力に迫ります。実際に使用した際の感想や、おすすめの使い方と合わせてご紹介します。
― マルガレーテンヘーエ工房はご存知でしたか?
はい、ギャラリーなどで見て知っていましたし、興味もありました。李英才さんはどれくらいこの工房に関わっていらっしゃるんですか?
― 李さんが工房のアートディレクターに就任したのが1987年。その後、様々な釉薬の研究ののち、このシリーズが誕生しました。これまで数多くの国の様々な食文化に触れてこられた平松さんですが、この器の印象を教えてください。
最初は、使いこなすのが難しいように感じました。器としてだけでなく、モノとして非常に完成度が高い。器としての使い勝手と、モノとしての完成度は別だと思うんです。
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― もの自体は美しいけれど、使い勝手が難しいと感じる部分はどのあたりですか?
この器のデザインソース、つまり原点がどこかと考えたとき、それは韓国の祭器だと思いました。私は李朝のものが好きで、たとえば耳(取手)付きのボウルを見たときに気づいたのが、これは真鍮や石でつくられてきた朝鮮半島伝来の意匠でもあるということです。韓国の祭壇は日本のそれと比べて高く、床に座って拝むので、祭器は横から見て美しいのが条件です。盛るものも、高く積みあげて徳を表すという儒教的な考えがあり、横あるいは下から見上げたときの尊厳な趣、格調の高さが大事なんです。
そして韓国の陶磁器の特徴のひとつは、重いこと。それは、重量が軽ければ人間まで軽いというような、言葉になりにくい感覚があるからです。持ち上げて軽いものは、なんとなく価値が低いと感じられてしまう。また、文化的背景として金属器や石器が多く使われていたこと、生地を薄くする陶芸技術が十分に発達していなかったことも影響していると思います。
この器には、そのような文化的背景をもつ国で育った作家の個性が、優れた魅力として表れており、使いやすさやデザイン性だけではなく、奥底に深い精神性が感じられる。そういう多面的な要素を知った上で扱えば、ぐっと面白みが増すように思うのです。
― 文化的な背景を知ることで、器との向き合い方も変わりそうですね。
シャープであるとか、シンプルだとか、それだけではないような気がしませんか? 朝鮮半島で伝統的に使われてきた祭器は、使いやすさだけではなく、周りにあるものを凌駕しなくてはならない存在として扱われてきた。つまり、価値や存在感が求められたんですね。だから、この器のシリーズはいずれも、ふと佇んでいるだけで品格を感じるのだと思います。 -
― そういった文化的な背景があるこの器を使ってみたいと思われたのは?
盛り付けるものをおのずと要求してくる器なので、毎日の生活のなかで使いこなしてみたいという刺激をかきたてられました。
― 実際にはどのように使われましたか?
プレートは、スクランブルドエッグや、濃い色のトマト、インゲンのごま和えなどとともに、色彩のコントラストをつければ、存在感がよりはっきりするように思います。テーブルの風景にメリハリをつけてくれるんですよね。
食べ物自体に力があるものがいいように感じました。ポットにはにんにくの玉を3、4個入れています。通気がよく、適度に湿気を防ぎ、蓋付きなのでそのまま置いておいても風景がすっきりするところが素敵です。 -
― 蓋付きのポットをニンニク入れにされたのにはなるほどと思いました。ショウガの置き場所にも困るんですよね。
あ、ぴったりですね。冷蔵庫に入れると水っぽくなっちゃうし。新聞紙に包んでこの中に入れておくといいですね。お饅頭やおせんべいなどの和菓子もこの中にいれて、そのままテーブルの上に運んでも素敵じゃないですか? そういうコンテナみたいな使い方も楽しいですよね。
あとは花器としても、とても使い勝手がいいです。度量があるというか、花をしっかりと受け止めるので、一輪だけでもいいし、野草もよく合う。重さがあるから使いやすいんですよね。安定感もすごくよくて。
― 完成された形だからこそ花器としていいんでしょうか。形の力があるから?
はい。形、重さ、色、とにかく完成された美しさを感じる。部屋のなかにさりげなく置いても、おのずと集約力があるというか。すごいと思いますね。 -
― 今回はマットグリーンの蓋付きポットとお皿を使っていただきましたが、他に気になる色や形はありますか?
ツヤのグリーンもいいなと思いました。でもプレートの場合は盛ってみないとわからないところがありますよね。私、盛ってみて、あ、違うなと思ったらお皿を変えるんです。そういう意味ではマットのグリーンのほうが想像しやすいかな。
深めのボウルも使いやすいと思います。和食の煮物にも合うはずです。冬の大根とお肉の煮物やおでんとか。でも見れば見るほどどれもキムチに合いそうですね。
― 小さいお皿はどうですか?
これは、韓国では茶器や茶托にあたります。カップを乗せ、その横にお菓子を乗せてはいかがでしょう。
― 組み合わせて、重ねて使うのもいいですね。
大きめのプレートにパンや目玉焼きを盛り、小さいカップを置いて、それにヨーグルトやフルーツを入れ、ワンプレートで使うと遊びがあって楽しいと思います。色を変えて合わせてもいいし、ガラスでもいいでしょうね。それだけ“舞台”になってくれる器だと思います。
― ご自宅では、どういう器をよく使われますか?
洋食器はほとんど持ってないんです。イタリアの業務用のものはありますが、他はすべて陶磁器です。和食器は、何にでも合うから使いやすいんです。 -
― 平松さんのエッセイを拝見していると、見立てというか使い方にいろんなアイディアを持っていらっしゃると思いました。普段から、そういう使い方をされているんですか?
アイディアというよりは、むしろ機能と遊び心優先です。あとは効率ですね。さっきのプレートを重ねるのも、運ぶのに楽だし、バランスも取りやすいから。合理性が一番です。形のために何かやるってことはないですね。
― お話をうかがって、この器との新しい向き合い方を発見させていただきました。背景を知りつつ、気軽に使える提案をしていきたいと思います。
そうですね。工房の写真を見せていただいて、この器はとても知的だなと思いました。汎用性もあって、すばらしいと思います。器のなかに内在している韓国文化を知ったうえで使うと、より理解が深まるところも素敵だと思います。
Photo by Kaori Nishida
ひらまつ・ようこ
エッセイスト。食や文化全般をテーマに広く執筆活動を行う。近著『食べる私』(文藝春秋)『彼女の家出』(文化出版局)ほか著書多数。 -
スペシャルインタビュー マイク・エーブルソン www.livingmotif.com/news/160916_01
スペシャルインタビュー 泊 昭雄 www.livingmotif.com/news/160916_02
マルガレーテンヘーエ工房の器 9月16日(金)〜10月16日(日)イベント詳細ページ
www.livingmotif.com/news/160909_01
オンラインショップでのご購入
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