スペシャルコラム|深澤直人(SIWAデザイナー)「愛される素材 SIWA|紙和」  18.10.24

スペシャルコラム|深澤直人(SIWAデザイナー)「愛される素材 SIWA|紙和」 

和紙メーカー 大直とプロダクトデザイナーの深澤直人さんが取り組む、伝統的な和紙を現代の暮らしに提案するブランド「SIWA|紙和」が10年目を迎えました。

10周年を記念してリビング・モティーフで開催している展覧会初日に、深澤直人さんからお話をうかがいました。(聞き手:デザイン誌「AXIS」編集長 上條昌宏)

  • 10周年記念イベント「SIWA|紙和 ー触れて、馴染む道具」

    2018年10月17日(水)〜11月6日(火) リビング・モティーフ1Fにて開催

  • 和紙の産地として千年の歴史を持つ山梨県に本社を構える和紙メーカーの株式会社大直。「紙の可能性を広げるもの」をつくりたいと、デザイナーの深澤直人さんにパートナーをお願いしてから10年。トークイベントの前半は、大直と一緒に一から立ち上げた「SIWA|紙和」ブランドの成り立ちを深澤さんがスライドと共にお話くださいました。

  • 山梨県市川大門の美しい風景

    深澤「大直さんの会社がある市川大門は水と空気がすごく綺麗なところで、実は僕も山梨出身なのですが、平安時代から和紙の産地と聞いてびっくりしました。まずは大直さんの工場を訪ねました。その時に大直さんがつくっているやぶれにくい障子紙“ナオロン”という紙がしわくちゃになっているものをたまたま見ました。ピンと張らなければいけないものが皺になっているのを見たときに、これはいいなと思ったんです。そのしわくちゃの紙を使ったら大直さんは驚くだろうなと思いながら、最初の提案について考えました」。

  • ブラウンバッグと生成りのバッグ

    深澤「最初のアイデアは、アメリカで暮らしていたときにあった“ブラウンバッグ”。クラフト紙を使ったサンドイッチなどを入れたりして持ち歩く姿が日常にあったんです。それがなんだかファッショナブルな感じがして。紙なんだけど袋がバッグになっているという。それで最初に生成り色のバッグを提案しました。そしてその紙が皺になってる。それで、名前も和紙が皺になっているので“SIWA”とつけました」。

  • 深澤「アイデアを説明するときにしわくちゃになった名刺を持っていったんですね。ポケットにくしゃくしゃに丸めて持って行って、それを出して広げながら自己紹介したら面白いだろうな、と。失礼かなと思いながらも、それがSIWAですよっていうことがやりたかったんです。それを大直さんも面白がってくれて、メンバーも自分の名刺をくしゃくしゃにしてオープニングに臨んだというエピソードがあります。今でもそうやって使っているそうです」。

  • 深澤「商品づくりには、まず染色と縫製の技術開発からスタートしました。接着があまり効く紙ではないので縫うしかなかったんですね。それをしてくれる工場探しから始まりました。最初しわが付きすぎた状態でサンプルが上がってきたので、しわの標準サンプルをつくったりもしました。でも、あえてつけたしわではなく、製造過程で裏返したりしたときに付くしわが一番自然だったんです。そして使っているうちに自分でつけるしわがまざりあって手に馴染んでいくのが一番いいというところに落ち着きましたね。色についてですが、和紙なんだけど伝統的な色ではなく現代の日常に合う色を使いたいというのがポイントでした。こういう紙の色のバッグはありそうでなかったのではないかと」。

  • 大直の工場前で撮影したカット

    深澤「製品は紙ももちろん手づくり、縫製も手作業、会場作りもカタログも社員さんたちとつくってブランド作りをしていきました。撮影現場もモデルも会社の人。そうして日常のさりげないシーンに使ってもらえるものをつくり2008年にインテリアライフスタイル展で発表しました。あたたかみのあるブースづくりがすごく評判がよくブランドの認知度があがり、日本だけでなく世界に伝播しました」。

    深澤「年々商品も増えていきました。ステーショナリーからリビングでつかうようなランドリーボックスやスリッパなんかもかわいらしくできました。帽子や洋服なんかも作ってみました。SIWAで使っているナオロンはポリオレフィン繊維などの非常に強い繊維を使っているのですが、いつか自然素材100%の和紙を使いたいなという思いはありました。それで開発を続けて10年目につくったのがKOUZOシリーズです。楮(こうぞ)100%の本物の和紙の風合いは違う手触りでいい製品になりましたね。SIWAが和紙に行くぞ、という意気込みでつくりました。あとは立体の製品としては張子で時計や漆で仕上げたお弁当箱も。おにぎりの海苔の皺と紙の皺が合って、なんともおいしそうなかわいらしいかたちになりました」。

  • KOUZO by SIWA|紙和

    ブリーフケース(M)
    ブリーフケース(ワイド)

  • 立体製品として取り組んだ張子の時計
  • 張り子シリーズのおにぎりのおべんとう箱
  • 柚木沙弥郎さんの絵がパターンになっているバッグシリーズ

    後半はAXIS編集長上條と会場の方からの質問へ
    上條「今回染織家の柚木沙弥郎先生にパターンを描いてもらった製品がありますが、どうしてパターンが欲しかったんですか?」

    深澤「布と同じようにグラフィックをやってみるのもチャレンジのひとつの候補にあったんです。たまたまそのときに日本民藝館の展覧会で柚木先生の展示がすごく迫力があって。それでぜひお願いしようということになり、描いていただきました。そしてそれを私のほうでトリミングしてバッグに落とし込みました」。

  • 柚木沙弥郎さんにサインをいただいた時の写真

    上條「デザインがビジネスとして、またブランドとして成功したことをどのように捉えていらっしゃいますか?」

    深澤「ものはブランドの結晶みたいなもので、唯一、具体ですよね。その具体を隅々まで読み込む作業がビジネスを興すことと重なること。それを無視して考えずに行う作品的なものづくりとはまったく違うものだと思っていて。よく意匠としてのデザインもするしビジネスもよくわかっていますねという質問をされますが、自分ではなぜそれが別のものとして認識されているのか?と思います。メーカーのこと、紙文化のこと、山梨だけではなく日本、日本だけではなく世界ということも視野に入れたらどういう製品がふさわしいかということも考え、ブラウンバッグという西洋のカルチャーも視野に入れて、多面的にパズルが合わさってひとつの結晶化されたものが製品になることがビジネスなんです。そういう姿勢でいつも仕事に取り組んでいます」。

  • 会場の方からの熱い質問も飛び交いました。
    会場「このSIWAの製品は地域文化に根差すものと言われる民芸とプロダクトデザイン、どちらのものと考えていますか?」

    深澤「SIWAに関していえばデザインです。自分は案を出す、デザインする側なので。でも、つくっている人からこれは何ですか?と聞かれたら民芸といってもいいかもしれない。つくり手は作家ではなく担当者。民芸とは日常にあるものをいち担当者がつくったもののことなんです。だからSIWAはその中間領域みたいなものですね」。

  • 会場「地域のものを扱う仕事をしているのですが、地域の地場産業のデザインのありようについてどうお考えですか?」

    深澤「地場産業における現在のデザインには2種類あって、デザインを迎え入れずに伝統を守って輝いているもの、対してデザインが入らないほうが良かったものもたくさんある。ぼくはどうせやるなら伝統的なものとデザインに変にブリッジをかけるよりはしっかりとデザインしようと。伝統的なものをいち素材と割り切って考えました。和紙という伝統的なイメージをわりと消しながら考えました。デザイナーの責任で、伝統的なものにどう自分が対峙していくかは非常に重要なことで簡単にはさわってはいけない。やるなら徹底的に分析して変えていかないと中途半端なものにしかならないと思います」。

  • 上條「地場産業側と相思相愛でないとうまくいかないのでは?」

    深澤「そうですね。ものをつくる側にデザインしたい人もいるのですが、デザインの専門家ではないですよね。それぞれの領分は守ってスタンスの取り方もしっかり決めてやらないといいものは生まれません。あと重要なのは、伝統的なものというのはかつて日用品だったもの。だから今生きているときに活かされるものでないと全く意味がない。SIWAは今の日常に合っているから10年やってこられたのだと思います。そこはしっかりと地に足をつけて考えています」。

    デザインからブランド作り、ビジネスに至る深澤直人さんの哲学を感じることができた、実りあるトークイベントとなりました。

  • 株式会社大直の一瀬愛さんと深澤直人さん