スペシャルコラム|日野明子×ヤスダ屋「楽しくなる、ひとてま調理の始め方」 19.10.04

スペシャルコラム|日野明子×ヤスダ屋「楽しくなる、ひとてま調理の始め方」

日本中を駆け巡り、道具の良さと作り手の思いを伝えている日野明子さんが選んだ「日本の道具」展。
初秋の一夕、料理家、ヤスダ屋の安田花織さんをお招きし、日野さんとともにお話しいただきました。
テーマは「蒸す、いぶす」といった調理法のおもしろさや、せいろの使い方について。お供は、安田さんによる旬の食材を使ったおいしいお料理と日本酒です。

  • そろそろ温かい湯気が恋しくなる季節。キッチンでホワホワの湯気が料理の香りとともに広がるのは、なんとも幸せな時間です。今回のトークのテーマは「楽しくなる、ひとてま調理の始め方」。中でも、「蒸す、いぶす」調理法が中心です。

  • 安田さんが選んでくださったお酒のうち一つは、灰持酒(あくもちざけ)と言われる「黒酒」。灰を投入して保存性を高めた鹿児島の伝統的な地酒です。
    「すでにグラスが空になっている人もいるようですが、みなさん、とりあえずトークが終わるまではこの一杯で我慢してくださいね」と、日野さんが場を和ませます。

  • 安田さんは、食材のルーツを求めて各地を旅しています。まず最初に旅先で出会った蒸し料理として紹介されたのは、タイ北部のアカ族の家。竹で造られた簡素な空間に囲炉裏があり、水を入れた鍋の上で米が蒸されています。
    「かつての日本の茅葺き屋根の家でもそうでしたが、ここでも火とセットになっているのが「いぶす」調理法。食べきれなかったお肉は火の上の空間に置くことで他の動物から食べられることもなく燻蒸され保存されています。」と安田さん。

    一方、インドネシアの漁師の家で、いぶす燃料に使われていたのは、ココナッツの殻。
    「インドネシアはカツオの産地。日本のカツオ節の原料として、燻した状態で日本に持ち込まれるものも多くあります。昔は石油を使っていたようですが、臭いがつくので、今ではココナッツの殻でいぶされているようです。」アジア各国の蒸し料理を巡った後は、日本の地獄蒸しという温泉地独特の料理法も紹介されました。

  • 山一 中華せいろ 30cm ¥16,400(税抜)

    今回のトークイベントのテーマが「蒸す」に決まり、急遽安田さんはせいろ持参で別府へと向かってくださいました。その際に使用された山一さんのせいろ。段数を増やしたい場合はフタなしで身だけ 30cm ¥7,900(税抜)のお取り寄せが可能です。

  • 安田さんは一人暮らしですが、自宅で愛用しているせいろが直径30cmのものと聞いて、日野さんは驚いたと言います。
    「大きいと思われるかもしれませんが、このくらいのサイズだといろいろな種類を入れて一気に蒸すことができるんです。蒸し上がった後で、たとえば胡麻油と塩で和えてナムルのようにしたり、さっと焼いて香ばしさを加えるなど、いろいろな料理展開ができるんですよ」。
    時には一人で100人分もの料理を作る安田さんにとって、「実は蒸し料理はいちばん楽な方法」だとも。

  • この日のために用意された料理は、いちばん下にレモングラスを入れたスープの鍋を置き、上にせいろを2段重ねて、スープの湯気で鶏肉や野菜を蒸すというもの。スープとともに、いくつかのお惣菜が一気にできあがるという手軽さです。

  • 「今日はスープにレモングラスを入れましたが、好みのハーブやレモンを加えると、部屋に香りがふわっと広がってすごく気持ちがいいんです。疲れて帰って来ても、お気に入りの道具を使ってハーブや木の香をまとった湯気がフワフワッと漂うと、ああ、今日もよくやった自分!って思います(笑)。しかもお部屋の湿度も上がって、お肌も潤う」という安田さんの言葉に、「すばらしい!」と日野さん。

  • 早川勝利 中華せいろ18cm ¥18,000(税抜)24cm¥19,200(税抜)
  • 柴田慶信商店 和せいろ7寸 ¥20,000(税抜き)尺 ¥30,000(税抜)

    日野さんセレクトのせいろは、お母様と二人三脚で手作りされている早川勝利さんの中華せいろと、曲げわっぱで有名な柴田慶信商店の和せいろ。「使用後、和せいろはたわしとクレンザーで洗ってもらって構いませんが、中華せいろのほうは、中が空洞になっているので全部洗うと乾かすのが大変になります。汚れた箇所だけさっと洗うか、お湯で空蒸しする水蒸気消毒がおすすめです」と日野さん。
    使った後は、しっかりと乾かすこと、しまったままにしないで使い込むのは、どちらにも共通するお手入れ方法です。「中華せいろは、窓辺にフックを取り付けて、しまわないで掛けておくといいですよ」とは安田さんからのアドバイスです。

  • 道具と長く付き合っていくうえで、頼りになる日野さんの著書「台所道具を一生ものにする手入れ術」¥1,600(税抜)

  • さて、皆さんお待ちかねの安田さん特製のお楽しみ料理。一人ずつお皿に盛られたメニューはこちらです。
    ・竹炭酒粕鶏と青菜の低温蒸し
    ・秋野菜のグリル 木ノ実味噌添え
    ・干し大根のぬか漬け
    ・いのしし雑穀ちまき
    ・醗酵キノコとレモングラスのスープ

    合わせるお酒は、先の「黒酒」以外に、明治神宮の御神酒も造っている豊島屋酒蔵の日本酒3種と、大分の鷹米屋酒蔵の生酒。やさしい味と食感のお料理に、醗酵によって醸された日本酒がよく合い、参加者たちは自分の好みの日本酒はどれ?という話でも盛り上がっていました。

  • 食材と調理法を求めて世界の奥地まで訪ねていっては自分でも試してみる安田さんの飽くなき探究心、日野さんの道具への深い愛情が伝わってくるトーク。ひとてまかけることで、むしろ短時間で料理でき、幸せな気持ちになれる蒸し料理を、自分でも作ってみたくなる秋のひと時でした。

    「日本の道具 ひとてま上手の愛用品」〜10月15日(火)まで開催中です。
    詳しくはこちら
    https://www.livingmotif.com/news/190904_01